Vol.12 バイオフィリック空間、写真で実現
ワークヴィラ八重洲では「水の流れ」を
今回の八重洲の物件では、この考え方がさらに一歩進んだ。
ゴールドウインが日本各地の国立公園を支援する活動「ゴールドウィンナショナルパークスアドベンチャー」と連携し、その活動の中で撮影された写真からキヴィが作品を選定した。
採用されたのは、利尻礼文サロベツ国立公園、吉野熊野国立公園、阿寒摩周国立公園の写真。写真家・木本日菜乃氏による作品だ。
写真を選ぶ際には、建築やランドスケープとのつながりも考えた。インタビューでは、ランドスケープコンセプトを受けて「水の流れ」に着目し、滝や渓谷などの写真を提案した。
そして実際に大きな自然写真を室内に置いてみると、独特の感覚が生まれたという。
「室内の中にいるんですけれども、遠くを見る視点になるような感覚になったり、なぜか見入ってしまう感覚になったり、入居者の方からいろいろな反応があったんですよ」と説明する。
写真の中には「遠く」がある。
実際には壁なのに、その向こうに森や谷が続いているように見える。植物を置くこととは違う、視線の奥行きによる自然との接点である。

今回のプロジェクトで、さらに興味深いのはここからだ。オフィスに国立公園の写真を置いて終わりではない。その写真の向こう側にある、本物の自然へワーカーを連れ出そうとしている。
ゴールドウインはこのプロジェクトを通して、国立公園の自然だけではなく、そこで自然と共に育まれてきた地域の歴史や文化を伝える活動を行っている。今回の協業では、国立公園での企業向けの環境・アウトドア教育やチームビルディングなどのプログラムも企画していく。オフィスで自然を見る。そこから自然に関心を持つ。そして実際の国立公園へ行き、身体で自然を体験する。再び都市へ戻って働く。

自然をオフィスへ「持ってくる」だけだったバイオフィリックデザインが、逆に人をオフィスから自然へ連れ出すところまで広がっている。さらに企業同士の結びつきも生まれている。
「何を置くか」から「どうつなぐか」へ
もちろん、植栽には植栽ならではの価値がある。今回の事例も、建築やランドスケープに植物を積極的に取り入れたワークプレイスだ。だからこれは「植栽か、写真か」という話ではない。
植栽によって自然を感じる。写真によって遠くの自然へ視線を向ける。素材や光によって自然を想起する。そして、ときにはオフィスを出て本物の自然へ行く。そう考えると、バイオフィリックデザインはもっと自由になれる。「植物をオフィスに何鉢置いたか」ではなく、「働く人と自然をどうつなぐか」。そこが着地点だ。

自然の写真によるこの試みは、バイオフィリックデザインが「働く場に自然を取り入れる手法」から、人と自然との関係そのものをデザインする考え方へ広がりつつあることを示している。
レポート:本間美紀/ライフスタイルジャーナリスト
インテリアの専門誌「室内」編集部を経て、独立。家具、インテリア、デザイン、住まい、キッチンなどの取材執筆、セミナーなどを手掛ける。ドイツ、イタリアなど海外取材も多数。著書に「リアルキッチン&インテリア」「リアルリビング&インテリア」「人生を変えるインテリアキッチン」(小学館)など。