インテリア トレンドレポート

Vol.9 サステナビリティの新しい解決を生む、
オフィス空間の木の家具

木曽地域の廃校を合板製造・内装材加工工場に

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「ツミカサネ」の合板製造工場となる木曽町・旧上田小学校

次の例は4社の合同のプロジェクト。Tree to Green(本社:東京都渋谷区、代表取締役:青野 裕介)、ソルトターミナル(本社:長野県塩尻市、代表取締役:友保 悟郎)、竹中工務店(本社:大阪市中央区、取締役社長:佐々木 正人)、丹青社(本社:東京都港区、代表取締役社長:小林 統)の4社が、木曽地域の森林資源を活用し循環型経済の構築を目指す「木曽森林グランドサイクル構想」の中核事業として、合板製造・内装材加工に取り組むプロジェクトを始めています。

「シンゴーハン(仮称)」と呼ばれるこのプロジェクト。4社は事業を推進する会社としてツミカサネを設立し、木曽地域の廃校を活かして単板と合板の製造工場の2拠点で事業を開始します。2026年春より試験運営を開始して、同年秋に本格稼働予定です。これまで有効活用が困難だった小径木を合板へ再生し、建築や内装、造作の現場の要求に直接応えることで、森林資源の価値創造と地域経済の活性化を目指しています。

「木曽森林グランドサイクル構想」とは?

竹中工務店は、森林資源と地域経済の持続可能な好循環を「森林グランドサイクル®」と名付け、林業事業者や自治体などと連携を進めています。「木曽森林グランドサイクル構想」は、この理念を豊富な林業資源を抱える長野県木曽地域で具現化する取り組みです。

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森林グランドサイクル®の概念図(※竹中工務店が共同運営するキノマチウェブより)

木曽地域には構造材に使えるほど成長した木が大量にあります。ただ、森林の半分ほどは小径木であり、伐採したとしてもその半分が使えない状況です。経済性を考えると手をつけることができませんでした。そこで、その小径木や未利用材を建材へと変換する流れを構築して、森林の健全な再生、地域経済の活性化、地域材の活用を一体で推進することを目指しています。

この森林グランドサイクル®は単独で成立できるものではありません。木曽に木工や木育の拠点を持つTree to Green。木を通じたまちづくりを塩尻市の観光地・奈良井宿で進めるソルトターミナルという地場の2社。

そして、森林グランドサイクル®の推進による地域の活性化と森林資源の有効活用と高付加価値化に取り組むゼネコンの竹中工務店。商業空間などの社会交流空間における内装の木質化の推進に取り組む丹青社。これら2社は全国で木材利用の可能性がある空間づくりを担っています。竹中工務店は主に構造材の利用、丹青社は小径木を活用した合板を利用する想定です。

「シンゴーハン」は、林業や木工の交流・イノベーションのハブを目指す

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森林グランドサイクル®の概念図(※竹中工務店が共同運営するキノマチウェブより)

現在は、工場の本格稼働に向けた施設改修や製造ラインの準備などが進行中というシンゴーハン。4社それぞれの専門性とネットワークを活かして、自社プロジェクトや関係企業への導入を通し「森林グランドサイクル®」に基づいた建材の普及と実用化を推進していくとのことです。

単板製造工場の塩尻市・旧楢川中学校では、林業や木工などに関わる企業や人の交流・イノベーションを生む森林ハブ拠点となることを目指して、竹中工務店と塩尻市、塩尻市森林公社、ソルトターミナルにて取り組みが始まっています。

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竹中工務店と丹青社など4社による長野県木曽町の合板製造工場の鳥瞰イメージ

オフィス家具メーカーと木製家具メーカー。ゼネコンと内装・ディスプレイ業。隣接しながらもあまり交わることがなかった業界の大手企業同士が協業して、木材の有効活用、地域経済やサステナビリティについて取り組む最新事例を紹介しました。

2025年のオルガテック東京でもカリモク、飛驒産業、良品計画などのブースが木材への取り組みを中心に構成していたことを覚えている方も多いでしょう。そして、コクヨ、オカムラ、内田洋行などのオフィス家具メーカーもかねてより国産材・地域材に取り組んでいることはご存じの通りです。

もはや戦略の重要な選択肢の一つである木質化。今回の2事例を含むこうした動きが、オフィス空間における新たな価値創造と、地域社会の持続可能な発展に貢献するモデルとなっていくのでしょう。これらの取り組みがどのように進化し、新たなイノベーションを生み出していくのか期待されます。

取材協力:

レポート:山崎泰/ジャーナリスト

デザインへの関心から丹青社に入社。1997年に社内新規事業「Japan Design Net(JDN)」立ち上げに参加。「JDN」「登竜門」など運営メディアの編集長、コンテスト企画制作ディレクターを経て2011年にJDN取締役。2025年、丹青社に移籍。取材執筆、トークや審査のコーディネートを手がける。